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白い陶器にはピンクと金の縁取りがしてあり、見るからに高級感が漂っている。
電灯の明かりに照らされ、なめらかな光沢が――。
ん?
変だな。
麗信の嗅覚が何かに反応した。
まさか……。
麗信はカップを手にとると、飲み口の部分に焦点を当てて、一つ一つ調べてみる。
「やっぱり……」
透明の薬品が、飲み口に塗られていた。
匂いから、おそらく睡眠薬だろう。
麗信は身体能力や五感が獣並みに鋭いため、常人には感じられない匂いにも敏感なのだ。
「これを使わすわけにいかないな」
麗信はカップを手にとると、給仕室の三人にばれないように外に出たあと、近くの水道で薬を丹念に洗い流した。
俺の前で舐めた真似しやがって……犯人は見つけしだいぶっ潰す!
内心、歯軋りをあげながら、外を見上げた。
まだ日も高く油断は禁物だ。気を引き締めないと!
「それじゃあ、新しい役員の歓迎会。みんなで仲良く頑張りましょうー!」
のどかな雰囲気をだしながらアリシアが音頭をとった。
紅茶もいい香りだなぁ。カップに注がれる前じゃなかったら睡眠薬に気付けなかったかも。
クッキーも美味しかった。
なんか心が和んでしまうなぁ。
「そう言えば、もうすぐあの時期ですね。アリシア様」
蓮は茜の顔をみて何か思い出したようだ。
しかも、顔色をみる限り、あまりよくないことらしい。
「そうね。またこの時期が来てしまったのね」
アリシアも茜のほうを見て、心底憂欝そうに呟いた。
一体なんだ? 気になる……。
「なんだ二人して。私がなにかすると言うのか?」
二人の憂欝な原因となっている茜は、さっぱりわからないと言った表情だ。
「あの~。何の時期なんですか?」
俺がアリシアと蓮に訊ねると、二人は大げさなため息をついた。
「そっか……あんたは『血のお茶会事件』を知らないのよね」
「レイ。知らないほうが幸せなこともあるわよ」
なんだその無駄に悲劇めいた名前と、大げさなリアクションは!?
かえって気になるじゃないか!?
「あ、あの事件か……」
茜が何やら思い出したらしい。
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