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ん? どこかでみた気がする。
写真をみるよりもっと前に……。
靄がかった記憶をひっぱりだそうとしたがまったく出そうにない。
もやもやとはっきりしない記憶のまま、麗信は指定された席に腰をおろした。
「あなたが生徒会の新入生ね。よろしく」
アリシアは椿のような艶やかな微笑みで挨拶する。
近くで見るとやっぱり綺麗な人だなー。
「は、はい。よろしくお願いします」
思わず見惚れていた俺は、あわてて挨拶をかえした。
この人が護衛対象か……。
あとでプロフィールを確認しとかないと……。
本部では女装させられたショックで、逃げるように出てきたため、確認する時間がなかったのだ。
「あら、あなた……」
アリシアは俺の顔をじっと見ていた。
なんか激しく恥ずかしいんですが……。
麗信は思わず俯いて視線から逃れようとした。
「天野さんでしたっけ? どこかでお会いしませんでしたか?」
アリシアはこちらを見て呟いた。
俺もそんな気がしてならないのだが、任務中に正体をばらすわけにはいかない。
つーか、知ってる人間ならなおさらだっ!
俺はあえて不思議そうな表情をつくって受け流した。
「ホホッ、まさか。アリシアさんとは今日が初めてのはずですわ」
「そうですわよね。あの方が……そんなわけありませんわね」
アリシアは悲しそうな表情を一瞬浮かべ、黒板に顔を向けた。
なんだか気まずい雰囲気が流れ、そのまま授業へと突入する。
警護対象の絵劉音家(エルネ)のご令嬢アリシア本人はどこか遠くをみるように黒板に目を向けていた。
「ですからこの数式を使うと、この問題の解は――」
黒板に数式が書かれていく。
やばい。
今更だが麗信は頭が悪い。
小学校の教育しか受けていない麗信には、高校レベルの数式が、ラテン文字や謎の数の羅列に見えた。
だめだ。さっぱりわからん。
麗信は開始五分で幸福な眠りの国へと旅立ちそうだった。
ツンッ!
「ひゃうん!?」
脇をシャーペンで突かれ、ビクッと震えた。
「天野さん。寝たらダメだよ。ちゃんと受けなさい」
アリシアが非難がましい顔つきで囁く。
受けろといわれても……。
こんなムズイ数式解けませんっ!
しかし、寝ることも許されず、昼休みまで苦痛の時間に苛まれた。
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