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「……ふきゃ?」
思わず手にしていたビニール袋を落とし、オウム返しをしてしまう遠命。見据える先からは何も返って来ない。
その代わり、遠命が暗闇に慣れようと目を細めている最中に、高速で情報誌が投げ飛ばされて来た。
そしてそのまま微妙に間抜け面をしていた遠命の顔を、左右に分けるようにして情報誌が真ん中にめり込んだ。
「……!!」
耐えられない痛みには、声が出ないことを改めて知る遠命だったが、痛み緩和の為に顔を抑えるていると、暗闇に人影を見つけ、いくらかの痛みが意識の中で飛んだ。怒りでアドレナリンが出たおかげだ。
なんで就職も決まらない自分がこんな仕打ちを受けねばならないのか。なぜ財布の中身が常に風前の灯火の自分が。
と、あまり関係のない所で溜まりに溜ったストレスの堪忍袋が切れそうになる。普段が温厚なので、キレると怖いタイプの遠命なのだった。
が、
「す、すいません……まさかそんな所にいるなんて知らなくて」
ここでキレられないから遠命は人から「仏の顔は三度まで、遠命の顔は無限大」などと呼ばれているのであった。
「……」
相変わらずの無言だったが、遠命は気配で相手のおおまかな位置が分かった。「そ、それじゃ」
逃げの先手、という訳ではないが、早めにこの場を去ろうとする。
長居していても、こちらから向こうに踏み込む勇気はないし、向こうもこちらには来ないと遠命は思ったのだ。
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