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赤い、薔薇の花を買った。
あまりお金を持ってないので、七本しか買えなかった。店員さんが紙袋に入れようとしたがそれを断り、ラッピングをした花束を手に持ったまま目的地へと向かう。
薔薇の花を持って街を歩く機会はなかなか無いだろうと思ってそうしたのだ。少し気恥ずかしいのと、何故かは分からないが、誇らしい気持ちが胸奥から込み上げてくる。
電車に乗り、椅子に座り、薔薇の花を見る。花は何故美しいんだろうと考えていたら、駅を一つ乗り過ごしてしまった。
目的の場所に着き、ドアを開けて中に入る。プレゼントを渡す相手はまだ眠っている。仕方ないと一つため息をつき、ラッピングを外して薔薇を花瓶の長さに切り分ける。その際にはボウルに水を浸し、水中で茎を切る。その方が長持ちするからだ。
花瓶に移し、見栄えを良くするために整える。そうしたあとに顔を近づけて匂いを嗅いでみる。芳醇とまではいかないが、鈍い甘さが仄かに鼻をくすぐる。
テーブルに花瓶を置く。しばらくして、この花を見せたい人がようやく起きたようだ。
お母さん、お誕生日おめでとう。
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