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ベッドのそばに置いてあった鞄の中身が、くしゃりと崩れる音を聞く。
「要……食堂行かねぇ?」
開けっ放しだったドアにもたれかかって、要を呼ぶ親友の彰。
「…後で行く」
「…わかった。後でちゃんと来いよ」
事情を知っている彰に感謝しながら、要は頬に涙が伝う感触を覚えた。
「……っ…ぅ…」
真広との出逢いと過去を思い出して、初恋と失恋を思い出して。
とめどなく溢れてくる涙に、涙が頬を伝う感触に、また涙が溢れてくる。
「…っ……あ…ぅっ…く…」
あぁ、ほんとに、真広が大好きだったんだ。
胸がきゅっと締めつけられる。
脳裏に浮かぶ真広の屈託のない笑顔。
『要!』
真広の可愛い声が耳の奥でこだまする。
「…っ……おんっ、な…っみてぇ……っく…」
自分の女々しさが情けない。
…真広のこと、ちゃんと諦めるから。
真広への気持ちをまた押し込めて、鍵をかけるから。
でも、今だけは……。
「…真広──…」
真広のこと、想わせて──。
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