選ばれたひと

3/7
前へ
/25ページ
次へ
 短く刈られたきれいな芝生。  鋭い葉で切った指をぺろりと舐めながら言う。 「気に入られてるからって呼び捨てにしない! それに、いつまでも座り込んでないで!」  仁美が要の腕を思い切り引っ張った。 「ワガママだなぁ、仁美は。 わかったよー」  深呼吸をして伸びをする要。  高い身長がさらに高くなって、元に戻る。  「まったく…」と呟いた仁美を、要はちらっと見た。 「ありがとな、仁美」  整った顔立ちの要。  目元がくしゃっとなる可愛い笑みを残し、仁美の頭を撫でて歩いていった。  1人残された仁美は、要の触れたところに手を重ねてみる。  顔が、熱い。 「バカじゃない…」  パシャッ。  誰もいない静かな庭に再び、シャッター音が響いた。     #  #  # コンコンッ 「はぁい。どーぞぉ」  語尾がとろりとのびた返事。  それが終わらないうちに、要は立派なドアを開ける。 「莉舞、来ましたよ」 「要かぁ。待ってたよ」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加