辰也

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  「辰也遅いよ」   不機嫌そうな珠美の声で我にかえった。 暑さと蝉(せみ)の騒がしさで頭がおかしくなりそうだ。   「遅くねぇし」   気温は35℃を上回っていて、向かっている先のアスファルトは歪んで見えた。熱中症での死者が昨年よりも大幅に増加したという事もあり、このまま暑さで人間が滅びるのではないかと思える程だ。   「早くせんと日が暮れるよ」   珠美とは付き合って半年になるが、俺のインドアな性格もあって、外行きのデートはこれを含めて5回ぐらいしかない。 この日は、彼女の珠美と映画を見に近くの映画館へ向かっていた。 近くといっても2kmは離れていて、歩くにはよっぽど遠かった。   「暮れん暮れん。まだ11時ばぃ。ってかやっぱバスぐらい使おうや」   珠美は節約がマイブームらしい。この日も節約と言って歩きで行く事になった。 車持ってないし…まぁいいか。 と、思いOKしたのはいいが、これは予想以上に重労働だ。 珠美が何故あれほど元気がいいのかわからなかった。   「辰也貧弱やね。節約の為よ。いつかこれが役にたつ日が来るって」   元気な珠美に対して俺は、横を行き来するバスを見る度、溜息をつきながら渋々歩いていた。  
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