辰也

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かれこれ出発してから1時間が経つ。 先ほどまでの住宅が並んだ道とは打って変わって、ファミレスやデパートなどが並ぶ街へ出た。   「あと少し…」   暑さにもだいぶ慣れたが相変わらず俺は元気が無く、コンビニの横を通る度に店内から出て来るクーラーの冷気に吸い込まれそうになっていた。   「もう少しやけんテンション上げてよ」   機械かこいつは。と思うほど、珠美は疲れを知らないみたいだ。 映画館はそこから5分といった所にあり、ビルなどの建物の間から茶色の頭を覗かせていた。   「あっ、あれね。ようやくここまで来たとか」   映画館が見えて安心し、自(おのず)と気分が明るくなってきた。珠美と言えばやはりそれ以上にハイテンションである。   そして、ついに映画館の目の前へとたどり着いた。洋風で茶色いレンガを積んだような造りの、洒落た雰囲気の映画館だ。   「…やっと着いた。帰りはバスにしようや。もう歩きたくない。」   この暑さの中1時間以上かけて歩いたのだから疲れないはずがない。 そして俺の強い要望により、帰りはバスで帰る事になった。 その時の珠美の顔と言ったら、あからさまに不機嫌な表情だったが、そんな事より俺は空腹で仕方がなかった。  
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