憧れは調査員

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憧れは調査員

『フェンリル極東支部関西分隊』  そこに一昨年の2069年に所属した少年。『新堂雄太〈シンドウユウタ〉』。身長は低めで、顔は中の上くらい。どちらかと言えば童顔と言われる。  全体的なカラーイメージはブラウン。瞳と髪は共に色素が少し薄く、その逆に肌は日に少し焼けている。 『F制式装備』を少し改変した調査員用の制服、それの上と、ジーンズ。それが彼のいつもの姿だ。  彼は今年で入隊二年目。そして17歳。  新米とはもう言われないが、中堅とも言い難い。そんな微妙なポジショニング。そして調査員という役職。肩身が狭いとは言わないが、それが微妙さに拍車をかけている。 「『サリエル』発見。場所は区画B。コード〈ワイン3〉」 「了解。ユータは引き続き『サリエル』の監視をお願い。僕は住民の待避の方に行くから」  任務内容は『サリエル』の発見報告の確認。及び外部居住区の住民の待避。 『サリエル』は、精霊のような姿をしたアラガミで、ふわふわと浮いている。  その神々しい姿で人々の心の隙間に入り込み、『真の神』と崇められ新興宗教を創りだしたこともある。  そんなアラガミが居住区の付近、もともと市街地であった場所で発見された。  だが実際は、『サリエル』は外部居住区に気づいておらず、攻撃されていない。  もちろん『対アラガミ防壁』は健在。一応の待避だ。 「了解ですけど、普通にユータって呼びましたよね。コードネーム作ろう、なんて言い出したの隊長ですよ?」  ハッと息を飲むのが無線越しにわかる。「忘れてた。どうせ5人しかいないし、名前で十分だよ」 「それ、俺も言いましたよね? ワインが好きだから、なんて理由で付けるからいけないんですよ」 「あーあー。聞こえなーい」 「ガキですか、あんたは……?」  そんな不毛な会話を更に二、三交わし、隊員と隊長の会話は終わる。  つくづく、なんでこんな事をしているのかわからなくなる。 『サリエル』に対して注意を払いながら、ユータは過去の記憶を、彼が憧れた調査員を思い描いた。
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