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 お話をしましょう。  昔々、天上に一人の美しい女性が住んでおられました。彼女は大勢の男から愛され、また、彼女も大勢の男を愛しなさいました。  しかし、彼女の愛情には少しばかり問題がございました。  ある夜、彼女は両手の生温かい感覚に、整った眉をひそめなさいました。面を上げなさいますと、酸素に触れた紅が黒に近づき始めている光景が目に入りました。そうしてやっと、彼女は、自分が再び罪を犯してしまった事実にお気付きなさったのです。  彼女の愛情の問題点、それは、独占欲が並はずれて強かった事でした。そしてもう一つ。深い愛情が募れば募るほど、同時に破壊衝動に駆られなさってしまう事でした。男性を愛し、気付けば手が赤く染まっている…そんな彼女の苦しみを、いったい誰が想像できましょうか。しかしその破壊衝動もまた、なんてことはない、深い愛情と独占欲の一種にすぎなかったのです。  彼女は左手から、温かくなった包丁を丁寧に下ろしなさり、傍らに横たわっている、彼であった物を御覧になりました。そうして、お召物が汚れなさるのも気に留めなさらずに、彼の頭部であったものを優しく抱擁なさり、冷たい涙をお流しになりました。しかしながら彼女は、それでも緩んでしまう頬を、どうする事もおできにならなかったのです。
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