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今日は、私の誕生日。
一人暮らしの殺風景の部屋も、今日だけは花を飾って少しおめかしをしている。
いつもより凝った料理の匂いが、小さな部屋を満たした。
それもこれも、遠距離恋愛中の彼氏…祐樹が、会いに来てくれるからだ。
玄関のチャイムが鳴った。
「香苗」
懐かしい声がした。
「祐樹、久し振り」
「あぁ。誕生日おめでとう。…これ、プレゼント」
祐樹は、花束を差し出してくれた。
「珍しいね、花なんてプレゼントしてくれるの」
「…たまには良いだろ」
そう言って、照れたように笑った。
「フフッ。さっ、入って。今日は腕ふるったんだから」
私は、祐樹を部屋に入れると、料理を並べた。
「お~、凄いな」
「食べよ♪」
「あぁ。いただきま~す」
「…ど?お味の方は」
「ん、美味い。やっぱ香苗の料理は美味いな」
「ほんと?ありがとう」
「うん、ホント美味い」
祐樹は、私の作った料理を口に運びながら楽しそうに笑った。
「………」
私は、祐樹をじっと見つめた。
私は、祐樹の笑った顔が大好きだ。
出会った頃から変わらない…ずっとずっと大好きな笑顔。
………でもね、祐樹。もういいんだよ。
嘘つかなくても。
さっきね…祐樹が来る前に、電話があったんだ。
祐樹が死んだ
って。
“誕生日は一緒に祝おうね”って約束、守ってくれたんだよね。
祐樹は優しい人だったから。
…ありがとう。祐樹
「…?どうしたんだよ、人の顔そんなに見つめて」
私の視線に気付いた祐樹が顔を上げた。
「ううん。何でもないよ」
「…?変な奴」
祐樹は、また笑った。
笑う度に揺れる肩は、薄くなって空気に溶け込みそうになっていた。
「…フフッ、そうだね。…ねぇ、祐樹」
「ん?」
「………」
胸が苦しくて、泣きそうになった。
でも、祐樹が好きだって言ってくれた笑顔で言おう…。
私は、ゆっくりと深呼吸をして笑顔を作った。
「祐樹に会えて良かった。…ありがとう、祐樹」
「あぁ、俺も」
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