サンは知っていた

4/7
前へ
/7ページ
次へ
そういいながら、心の中でガッツポーズを決めていた。 反対していた妻だったが、子犬を見ると表情が変わった。 「あら?雑種にしては可愛いわね。まっ しかたないわね。」と笑いの混じったため息を曜子がつくと、子犬は首を横に傾げ上目使いで妻を観察していた。 あれだけ嫌がっていた妻が、案外簡単に承諾したことに勇治はちょっと驚いた。 その日から二人と一匹の共同生活が始まった。 勇治は男の子が生まれたら太陽と名付けつもりだった。だがその夢は叶わなかった。 少しでも、その名前を何かに活かしたかったこともあり、英語でSUN サンと子犬に名付けた。その日から名もなき子犬は自分の名前を手に入れることができた。 サンは何処にでもいる普通の犬のようだったが、理解する能力は長けていた。これには勇治も曜子も驚いた。 だが、同時に無愛想な能力も長けていたようだった。 サンはそうやって少しずつ成長していった。 成長するにつれて、頭のよさと無愛想さの長所と短所を同時に身につけていった。しかし、妻の前では「敵わない」と思ったのか、いつの頃からか愛想を振り撒くようになった。 サンが考えている主従の順番はボスが曜子で次が自分 最後に余っているのが勇治ということになっていた。だから勇治にはほとんどと言っていいくらい愛想がなかった。 「お前なぁ 拾ってやったのは俺だぞ なんでそんなに愛想がないんだ」と勇治は冗談半分 本気半分で大人げなく言ったことがある。サンは後ろを振り向いて、しばらく勇治の顔を見たかと思うと、またプイと前を向いて歩き出したことがあった。 サンが志垣家にやって来てから毎朝勇治が散歩するのが日課と成りつつあったある日。 いつものようにリーダーを片手に歩いていると、サンが急に立ち止まった。リーダーを引っ張ってもいっこうに動こうとしない。「サン お前いい加減にしろよ‼俺はお前に付き合ってるんだぞ」と、やや恩着せがましい口調で言った。 どのくらい 4分5分? サンはそこから動こうとしない。正確には動きたくなかったのだろう。 軽い散歩の後、勇治は仕事に行かなければならなかった。多少時間に余裕を持ってはいたが、少しばかり焦っていた。普段なら10分で終わる道筋が、このままいくと15分かかってしまう。そんな計算が脳裏を過ぎった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加