サンは知っていた

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その瞬間100メートル先の見えにくい十字路で何かがぶつかるような鈍い音がした。方向的に通り道だったこともあるが、嫌な予感も手伝って十字路に向かった。 サンはまだ行きたくないと抵抗していたが、諦めてしぶしぶ歩き出した。現場についた勇治は驚いた。 何故そうなったのかは解らないが、一台のトラックが横転して、壁に激突していたのだが、その時の衝撃で荷台に積んであった1メートルくらいの金属の棒が何千本か飛散していた。 もしあのタイミングであの場所を通っていたらどうなっていただろう、もしかしたら怪我では済まなかったかもしれない。そう考えると、少し怖くなった。 それにしてもサンは何故行こうとしなかったのだろう?危険を予知?まさかな そんなことを立ちつくして考えていたら、救急車や消防車のサイレンの音がだんだん大きく聞こえてきた。 それから何ヶ月か経つころには、たまたま運がよかった記憶として思いだすことはなかった。もちろんサンについても同様で、たまたまということになった。 通常は朝散歩に行くのだが、日曜日はサンと曜子を連れてちょっと離れた公園までドライブに行くのが彼らの週間になっていた。日曜日になると、愛想のないはずのサンが勇治に「早く行こう 早く行こう」とおねだりしていた。 勇治は普段と違う、そのギャップが妙に嬉しかった。 公園に着くと、サンは綱から解放される。 街中と違い、ここではサンを縛るものは一切ない。犬として本来持っている五感を嫌というほど発揮して、帰るころにはさすがにぐったりして車の後部座席に座り、窓ガラスの間から顔を出して髭をなびかせていた。 何時の頃からだろう? もしかしたらサンが拾われてきてからすぐなのかもしれないが、妻 曜子はよく笑うようになった。こんなことならもっと早く犬でも飼えばよかった。そう思うこともあったが、逆にサンでなければこんな風に笑わなかったかもしれないとも思った。
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