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そんな日々を送っていた歩がそれに気づいたのは小学2年生秋の頃だった。
簡単に言ってしまえば、黒い物体としか言いようがなかった。それの型は細長く周りの景色との境目が解らないくらい不明確なもので時折半透明になってるようにも見えた。
だがそれがなんなのかは全く解らなかった。近づけば離れていき、逃げれば追いかけてくるように見えた。実際には歩とその物体は半径5日メートルという規則的な距離に保たれており、まさしくそれ自体は影に似ていた。
だからといって歩に何かしてくる訳ではなく、ただそこにあった。もしかしたらいたのかもしれない。
直感的に感じたのは怖いという感覚ではないということだった。
一度母親に話したことがあったのだが、からかっていると勘違いされ全く相手にされなかった。
それ以降歩がその物体について他人や友達や先生にも話したり相談することはなかった。
母親に話したとき、いや もしかしたらずっと前に気づいていたことだったのかもしれないが、その物体は歩意外は誰の目にも映らなかった。
そう 見えていたのは歩だけであった。
普段の生活の中でその物体は常に歩の近くに存在していた。
歩が友達とゲームをしているとき 母親と遊園地で手作りの弁当を食べているとき 学校のプールで泳いでいるとき 家のソファーでうたた寝しているとき 歩が一人で夕食を食べているとき いつでもその物体は歩のそばから決して離れることはなかった。
その物体はいつしか歩にとっては影と同じような存在になっており、それがあることが当たり前になっていた。
気がつけば、歩とその黒い物体はいつの間にか7年の歳月を共にしていた。
どういう規則性があるのかは解らなかったが、歳月が経つにつれその黒い物体は歩に近づいていると感じられた。それは錯覚ではなく、すでに歩との距離は約3メートルのところにあった。
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