♣第一章♣

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歩はいつしか高校生になっていた。 顔はやや静観で男前だったが、やはり学校ではあまり目立たない存在だった。実際には目立たないようにしていたと言うほうが正しかったのかもしれない。 身長は175センチ体重は55キロとごくありふれた背格好だった。 あの黒い物体は相変わらず歩の近くを漂っている。もはや日常化していて普段は気にも留めていなかったが、高校生になって暇つぶしにふと目を凝らし黒い物体を観察してみた。 ぼんやりと漂っていたと思えたが、実際にはそうではなかった。 その黒い物体は、人や影と呼べるものではなく、文字のようなものが集まって出来た集合体であると気づいた。 歩は学校の勉強はそこそこで、それ以外の時はその文字らしきものが何の意味を表しているのか興味が湧いた。 絶えず動いていた文字らしきものを書き写す行為は、決して簡単なことではなかった。上から順番に途中まで書き写した頃、ある友達のことを思い出していた。 歩が小学5年生の時、何処かから転校してきた少年がいた。 名前は快晴(かいせい)と言った。 あまり友達付き合いのない歩だったが、何故か快晴とは気が合った。 快晴は引っ込み思案で他人との距離を絶えず保っていた自分と違い、社交的で活発でクラスでは一際目立つ存在だった。 快晴はスポーツも万能で一見欠点が何もないように見えた。 だが実際は、勉強に関してはあまり興味がないように見えた。 快晴と遊びだして、何時か聞いたことがある。スポーツはあんなに得意なのに勉強は好きじゃないのかと… 実際快晴は勉強でさえやる気になればできないことはないが、興味のあること以外にはあまり力を注ぎたくないと言っていた。 歩もその気になればトップクラスの成績になれるはずだったが、目立つのが嫌だったので適当に手を抜いていた。 二人でそんな話しをしているとき、快晴があるゲームをおもいついた。 ランダムに教科を言い、次のテストでその教科に限ってのみどちらが高得点をたたき出せるか?というものだった。 勝敗は三勝二敗で歩が少しだけ勝っていたが、あまり盛り上がらなかったため途中でやめてしまった。
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