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  ***** 「はい、どうぞ」  男はそう言うと、パンパンに膨らんだ買い物袋を、玄関先に立つ中年の女性の足元に置いた。 「御苦労さま。ありがとねぇ! おばさん助かっちゃったわぁ~」 「いえいえ~」  松葉杖をついた彼女にバシバシと腕を叩かれても貼り付けた笑みを崩さない男は、浅黄色の和装に身を包み、祭りでもないのに足元は地下足袋。 その上、茶色い頭には…赤の線が目立つ狐の面をつけていた。 「これ、お代ね」 「今後ともどうぞご贔屓に」  500円玉を受け取った彼は、眼鏡の奥から覗く優しげな瞳を細めてその家を後にした。   *****
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