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  *****  バターンッ!!!  勢いよく開けられた扉に貼られた『万屋 狐』という紙がヒラヒラと揺れた。 が、開けた方はそんなことには興味ないとばかりに、肩で激しく息をしながら懐に手を突っ込んである物を取り出した。  それは、銀色に輝く…紐。  輪になっているが、伸ばせば40センチほどになるだろうか。  男は真剣な表情でそれを隅から隅まで確認すると、ガックリと肩を落として膝をついた。 「あ―――……またダメか!! 一体どうすりゃ“心からの感謝の言葉”がもらえんだよぉっ!!」 「阿呆」  よく通る女の声が聞こえた、と思えば、カランと音を立てて床に落ちた狐の面が口を開けた。 「何度も言っておるだろう? “心から”というくらいだ。それに見合う願いを叶えんでどうする!!!」 「そうしたいのは山々だっつーの!! けど、まずはこの『万屋』の知名度を上げんのが先だろ? じゃなきゃそういう依頼すら来ねぇだろっ!」  強い口調で話す面に、己の頭を掻きながら答える男の表情には全く余裕がない。 外見は20歳ほどに見えるが、その様子を見ると少し幼く見える。 「あぁ!! もうっ!!」  ドン、と叩いた床の上でカタリと面が鳴る。 しかし、それすらも気にすることのできない状態の彼は、宙に向かって叫び出した。 「そもそも何だよ!!! “108つの感謝を集めろ”って!!! 神様のくせに仏様みたいなこと言いやがって!!!!!」  それは、今まで言いたくても言えなかったこと…いや、言いたくても言ってはいけないことで。 抑えに抑えていたが、『万屋 狐』を始めて1ヵ月。 未だになんの成果もない焦りが、彼の理性をどこかへやってしまっていた。
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