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バターンッ!!!
勢いよく開けられた扉に貼られた『万屋 狐』という紙がヒラヒラと揺れた。
が、開けた方はそんなことには興味ないとばかりに、肩で激しく息をしながら懐に手を突っ込んである物を取り出した。
それは、銀色に輝く…紐。
輪になっているが、伸ばせば40センチほどになるだろうか。
男は真剣な表情でそれを隅から隅まで確認すると、ガックリと肩を落として膝をついた。
「あ―――……またダメか!! 一体どうすりゃ“心からの感謝の言葉”がもらえんだよぉっ!!」
「阿呆」
よく通る女の声が聞こえた、と思えば、カランと音を立てて床に落ちた狐の面が口を開けた。
「何度も言っておるだろう? “心から”というくらいだ。それに見合う願いを叶えんでどうする!!!」
「そうしたいのは山々だっつーの!! けど、まずはこの『万屋』の知名度を上げんのが先だろ? じゃなきゃそういう依頼すら来ねぇだろっ!」
強い口調で話す面に、己の頭を掻きながら答える男の表情には全く余裕がない。
外見は20歳ほどに見えるが、その様子を見ると少し幼く見える。
「あぁ!! もうっ!!」
ドン、と叩いた床の上でカタリと面が鳴る。
しかし、それすらも気にすることのできない状態の彼は、宙に向かって叫び出した。
「そもそも何だよ!!! “108つの感謝を集めろ”って!!! 神様のくせに仏様みたいなこと言いやがって!!!!!」
それは、今まで言いたくても言えなかったこと…いや、言いたくても言ってはいけないことで。
抑えに抑えていたが、『万屋 狐』を始めて1ヵ月。
未だになんの成果もない焦りが、彼の理性をどこかへやってしまっていた。
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