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自分で感情のコントロールができなくなっていた。
最早、自分が何に対して泣いているのか、何に対して胸が苦しいのか、全然分からなかった。
ただ回らない頭で考えることができたのは、これ以上この人を傷つけてはならない……ということ。
身を離し、薄茶色の瞳が私の心を鷲掴みにする。
それに呼応するかのごとく、高まる鼓動と、溜まっていた涙が零れ落ちたことで、開けていく視界……。
ちらつく雪が先輩の前髪に止まった。
吸い込まれるような色素の薄い瞳は、光の海を反射して琥珀色の輝きを帯びる。
まるでおとぎ話の絵本から飛び出してきたような端正な顔立ちに……目が、離せない。
――それはまるでふわりと舞い踊る雪たちのように、ゆっくりとした動きだった。
伏せられたまつげ。
震える唇と、視界いっぱいに近づく、色づいた先輩の顔。
――そっと触れるだけの……軽いキス。
茶道室の時とは違い、優しく、慈しむかのような。
琥珀色が周囲のライトに反応するように、そっと揺らぐ。
「3年間……ずっと、レイナのことが好きだった。……俺と、付き合ってよ」
そういって先輩はまたキスを降らせた。
何度も何度も降ってくるキスの雨に、冷たい雪が音も無く溶け込んでいく。
あんなに嫌だったはずなのに。
気持ち悪いと思っていたのに。
先輩のキスも、偽りだらけの世界も、このときだけは拒むことができなかった。
拒むことができなかったのに……
何故か、涙が止まらなかった。
息もできないほど……胸が、苦しかったんだ。
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