1551人が本棚に入れています
本棚に追加
「うわっ、冷てぇっ」
そう言ってお尻を摩ると、苦虫を噛み潰したような表情で私を見る。
「こんな寒いとこいたら、風邪引くだろう」
「……だったら先輩も同じです。こんなとこに来たら風邪引きますよ?」
しれっとして返されたのが意外だったのだろうか。
しばらく目を丸くすると、声を上げて先輩は笑った。
「……良かった」
低く、落ち着いた声音でそう呟くから、右側に座る先輩の横顔を反射的に見てしまう。
煌びやかなライトに照らされた先輩の横顔が儚く見えて、不覚にもドッキッとしてしまった。
「高科さん……もっと落ち込んでるかと思った」
さっきまであんなに落ち込んでいたのに、とは言えない。
上手くいえないけれど、先輩が来てくれたことで、不謹慎にも心が軽くなったように思えたから。
「……ホラ、高科さん、泣き虫だから」
まるで私の全てを知っているかのような口調は、この先輩だから言えることで。
悲しいけれど、トシには同じセリフは言えないような気がした。
そう気付いた瞬間私の中で感情の波が押し寄せてくる。
何でトシを好きになったんだろう。
私はトシの何を知っていたんだろう。
トシは私の何を知っていたんだろう。
お互い、一体何を見ていたのだろう……と。
.
最初のコメントを投稿しよう!