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「私、人を好きになって誰かのために涙を流すのって、バカみたいと思っていたんです」
カリナに薦められて以前読んだ少女マンガは、彼氏に振られて泣く女の子の話だった。
「失恋して泣くくらいなら、恋なんてしない方がいい。もし恋をするなら、泣き目を見ない、楽しい恋がしたいと、ずっとそう思ってました」
視界に入る恋人達は幸せそうに寄り添い、光溢れる光景に、うっとりとしていた。
「……だけど、自分が失恋してみて思いました。恋ってそんなに楽しいものじゃないんだってこと。自分が振られる立場になって……初めて知った。振られた人間は誰かを想い泣いているんじゃなくて、振られた自分が可哀想で……堪えられなくて泣くんですね」
自分でも驚くくらい乾いた声だったと思う。
妙に落ち着きを払った自分の態度に、自ら不信感を抱く。
「こんなに苦しいのなら、最初から恋なんて知らなきゃ良かった。そしたら、こんな思いしなくて済んだのに」
「…………」
「信じて待ち続けた自分が、バカみたい……」
「自分がそんなんで、どうするんだよ」
顔を上げないけれど、先輩はきっと真剣な表情をしてる……。
普段よりワン・トーン低い声音が、そう連想させた。
「前、言っただろ? 信じて信じて信じて……それでもダメなら、所詮相手がそこまでの人間だったまでだって。そんな相手に悲しむくらいなら、そこまで信じ続けることができた自分を褒めてあげなよ」
隼人さんのコンビニで言われたことを、もう一度ゆっくりと、確認するような口調で繰り返す先輩。
同じことを言われているのに、紡ぎだされた言葉は、温かな光となって、再度私の心に降り注いだ。
まるでもらったココアを口にしておなかがほっこり温まるように。
じわり、じわりと先輩の言葉が私の中の隅々まで染み渡っていくのを感じていた。
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