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「私――」
今なら、弱音を吐いてもいいかな?
生まれ変わるための儀式の途中だけど、そうするためには、もう一度今の自分の気持ちをさらけ出すことが必要なのかもしれない。
先輩なら……きっと、私の言葉、一つ一つをちゃんと受け止めてくれるような気がしたから。
これが終わったら、ちゃんと強くなるから。
せめて、今だけは……。
「――私、トシに伝えたいことがあったんです」
「ああ」
「今までの中で一番切なかったけど……私、それでも……トシと出逢って幸せだったんです」
「ああ」
「先輩が言ってたみたいに、最後の最後までトシの事信じてました。自分でも、本当、頑張ったと思います」
「ああ」
「好きだった……」
「…………」
「わたし……としのことが……ッ……ずっと……ずっと、好きだった…………トシのことが、大好きだったんです……!!」
「…………ああ」
まるで、止まっていた時間が音をたてて、ゆっくりと動き出したみたいだった。
最後の方は嗚咽と泣き声で、きっと聞き取れなかったと思う。
泣かないつもりだったのに、あふれ出す感情を止めることが出来なかった。
強くなると決めたのに。
もう……傷つけないと決めたのに。
なのに。一言一句余すことなく、先輩がうなづいてくれるから。
先輩が、優しさしくしてくれるから。
「ぅぁ…………うわぁぁぁぁぁ…………ッッ!!」
切り裂かれるような痛みが胸を貫く。
例え失ってしまったとしても、私の心の奥ではいつも、トシが優しく微笑んでくれて……。
その笑顔がまた、私の胸を強く強く締め付けて離してはくれなかった……。
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