1551人が本棚に入れています
本棚に追加
そっと、柔らかな温もりが私を包み込んだ。
冷えた身体をそっと抱きしめ、震える声が耳元で囁かれた。
「以前……言いかけたこと、覚えてる?」
ストンと落ちてくる言葉が、また違う意味で胸を締め付ける。
「信じても裏切られるような……もしもトシが、そこまでの男だったらって」
先輩の猫っ毛が頬を掠めた。
背中に回された両腕が、強く強く抱きすくめる。
「……俺にしときなよ、レイナ」
掻き抱く力は強いのに、つむぎだされる声が余りにも震えていたから。
耳を掠める吐息に身体が一気に反応する。今まで感じたことの無いゾクゾクする感覚に顔がみるみる紅潮していくのがわかった。
涙で滲んだ光の粒が、赤、緑、金色とぐちゃぐちゃに視界を遮る。
「緊張して震えてるの……ちゃんと伝わってる? 余裕なふりしてるけど、バカみたいに余裕なくしてるんだ……」
先輩は吐息混じりに、私の首筋に顔を埋めた。
まるで私を手放したくないって言ってるみたいに……
頬にヒンヤリとした感触が伝わると、しばらくして思い出したかのようにひょっこりと温もりが顔を出した。
「俺だって君の名を呼びたかった。苦しくて苦しくて……何度も諦めようとしたのに、その度に想いは強くなる一方で」
いつも落ち着いていて、ぶっきっちょで、傲慢で、私のこと、子ども扱いしてる先輩が……まるで見えない不安と1人闘っているようで。
震えながら、腕の力が一層強くなる。
.
最初のコメントを投稿しよう!