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「忘れないで……俺みたいに、馬鹿な男がいたってこと」
ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でまわすと、先輩は後腐れのない笑顔を見せてくれた。
「忘れないで……ちゃんと高科さんのことを想う人がいるということを」
もう一度、ふわりとした温もりが私を包み込む。
「忘れないで……」
まるで、"これが最後だから"って暗に言われたような気がした。
「人を信じることを。……人を、愛するということを」
――――思っていたよりもずっと、先輩は愛情の深い人だった。
最後に向けられた琥珀色の眼差しは、いつまでもいつまでも私の目を捉えて離さなかった。
「今まで、沢山傷つけてきてごめんなさい。先輩の優しさに甘えてしまってごめんなさい。私、強くなるから……。もう誰も傷つけないように、強くなるから……!!」
思えばあなたはいつも、誰よりも私のことを見守ってくれていた。
そのことに気付いた時には、私はすべてを失っていたけれど。
それでもあなたが私に注いでくれた愛情の全ては、辛かった私の恋愛の中で、唯一与えられたオアシスのようなもので。
「大翔先輩……ありがとうございました……」
――――それは、悲しさでもなく……虚しさでもない。
止めどなく溢れだす切なさと、申し訳なさと、やるせなさに涙が止まらなかった。
何も気のきいたことは言えなかったけれど。
先輩の強い想いに応えてあげることはできなかったけれど。
泣きじゃくる私の背中を、先輩は何も言わず、ただただ優しく摩ってくれた。
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