腕時計

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最初に目に入ったのは、高校の入学式。 腕時計だった。 同じ腕時計をしている、と思った、ただそれだけだった。 クラスの違う腕時計と、次に目に入ったのは、移動教室の時だった。 その時は、腕時計とその持ち主の、しっかりした腕を見た。 そしてその次は、体育祭だった。 腕時計と、その持ち主を見た。 そして、体育祭はただ腕時計の彼だけを探して、見ていた。 そうして、短い三年間が終わった。 結局私は、腕時計の彼の名前も知らない、性格も知らないで、クラスも同じになることなく、ただ関係を全く築けずに、『腕時計』という接点を大切に大切に過ごした。 多分、一目惚れだったんだと思う。 私は、彼に一目惚れだったんだと、今思う。 だから、この片思いは、一生片思いで終わるんだろう。 この想いが、伝われば。 腕時計が、時を刻むみたいに、伝われば。 どうか、いつか、どこかで、あの彼に、私の想いが届きますように。
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