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ジュノは言った。
「内殿を出たらお願いするわ」
リオは溜息をついたが何も言わずジュノの隣に並んで歩いた。
内殿の出入り口には衛兵が二人立っていた。彼らは軍靴を音を立てて揃え、姿勢を正すことでジュノに敬意を示した。
「おはよう」
彼らの間を通り抜けざま、ジュノは声をかける。衛兵達は微動だにせず姿勢を保った。
リオの肘を軽く持って足早に南殿へと続く橋を歩く。しかし長いスカートと高いヒールのサンダルのせいで実際はあまり速くは歩けなかった。
リオは歩きながらシルノア王国の王子がなぜ面会を求めて来たかの経緯を話してくれた。
ルーフェウレス王子は来月からこのキリスにある大学に留学するそうだ。それで挨拶に来たらしい。
「それなら父上か母上にお会いになった方がいいんじゃないかしら?」
話を遮ったジュノにリオは言った。
「もちろん王子は王様と王妃様の両方に面会を求めました。しかしお二人ともご都合が悪いとかで、姫様に回って来たのです」
ジュノはさっきから気になっていたことを訊いた。
「その話が来たのはいつ?」
リオは言いにくそうに言った。
「昨夜です」
ジュノは思わず立ち止まった。
「は?もちろん王子がそんな急に面会を求めて来たわけじゃないわよね?」
リオは深く溜息をついた。
「はい、数週間前だと思います。昨日の姫様のご公務が終わられた後、王妃様の秘書から連絡がありました。急なことだったので驚きましたがシルノア王国は大事な同盟国、お断りすることも出来ずにお受けしました。その時に向こうの秘書が姫様の侍女と仲がいいので自分が連絡すると言ったのです」
リオは淡々と話していたが、私は言葉の中に静かな怒りを感じた。
私は気を取り直して歩き出しながら言った。
「覚えておいて。母上の秘書も侍女達もわたしの侍女達と特に親しくしている者はいないわ」
リオは静かに言った。
「肝に銘じておきます」
リオはジュノの秘書になってまだ一ヶ月と日が浅い。宮殿内の人間関係がどのようなものか分からなくて当然だ。彼は遠からずジュノと王妃との間の冷えた関係を目の当たりにするだろう。
南殿に入ると涼しい空気とシャラの花の芳香が二人を出迎えた。
ジュノは出入り口脇の小部屋で軽く髪と服を整えてから南殿の廊下を歩き出した。
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