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リオは肩で大きく息をしながら深々と頭を下げた。
「リオ‥‥」
ジュノが言いかけるのを遮ってリオは言った。
「お叱りなら後でいくらでもお受けしますから、今は早くお支度を」
ジュノは首を傾げてリオを見た。
「支度って何の?」
リオが息を呑む気配がした。
「この後一一時よりシルノア王国第三王子、ルーフェウレス様と側近のディルフェイア様との面会が予定されておりますが‥‥お話が伝わっていないのですか? 王妃様の秘書が姫様の侍女に伝えると申しておりましたのに」
居間に戻っていたスクラとジュノは同時に溜息をついた。
「キナ様、私達は誰もそのようなお話は伺っておりません」
ジュノ付きの侍女の長であるスクラはきっぱりと言い切った。
ジュノは立ち上がった。
「とにかく急いで支度をしましょう。スクラ、手伝って」
時刻はその時すでに一〇時四〇分を過ぎていた。ジュノはスクラの手を借りて略式のサーレ国の着物を着た。グレー地に金銀の豪華な刺繍をあしらった少し丈の長い袖無しのブラウスを着、非常に薄い布地で作られた足首までの体にフィットする黒いスカートを二枚穿き、少し広がりのある手編みのレースのスカートを重ねる。最後に両手首にじゃらじゃらと細い金の腕輪を何本も着けて完成。着物は全て国内最高級の絹で作られている。
履き物には特に決まりはないのでそれまで履いていたサンダルをそのまま身に着けることにした。
時刻はもう一一時。執務室は南殿にあるので間に合うはずがない。
ジュノの焦りが顔に出ていたのか、スクラが言った。
「一番足の速いルキを先に行かせました。お客様へのお詫びとおもてなしはとりあえず心配ご無用です」
とりあえずはね、ジュノは溜息をついた。
「それでもあまりお待たせするわけにはいかないわ。リオ、行くわよ。ルキが向こうにいるならスクラはここにいて」
スクラの抗議の声を背後に残し、ジュノは廊下に出て足早に歩き始めた。
リオが追いついてきた。
「まさか走るわけではありませんよね?」
ジュノは笑った。
「王族の威厳を保てる程度の早足で行くのよ」
ジュノにとって内殿の中は慣れ親しんでいるので、どんどん歩いてエレベータに乗った。
「姫様、危のうございます。私の肘をお持ち下さい」
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