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「おっと…。‥‥さっきから掴んでばかりだね、翼は」
「ご…ごめん…」
「別に謝らなくても良いけど」
ふぅ…、と那岐が息を吐く。
うう゛…、あきられたかな…?
すると、左手で私の右手を握り。
「謝らなくても良いけどって言ったでしょ。すぐに謝るの、翼の悪い所だよ」
「ごめ……あっ、はい……」
慣れたように那岐は苦笑して、私の手を引き大きい桜の木に近づく。
「確かここらへんだったよね?」
「うん。そのはずなんだけど……那岐、あった?」
「無いね。翼、見間違いだったんじゃない?」
「え~?那岐だって見たでしょ?何かが光ったのを」
「見たけどさ。でも、探してもないんじゃ仕方ないよ」
諦めて帰ろう。
そうたしなめるように微笑んだ那岐に、不覚にも見惚れてしまった……。
だって、葉桜だけど淡いピンクの花びらが、漆黒の髪の那岐に合ってるんだもん。
素直に、綺麗だな‥‥って思ったから。
――‥リ‥リィン…リィン……リィン…
「ぇ?」
ザアァァ…、と大きな風が巻き起こる。
「う…わっ!凄い風っ!」
繋がれた手が強くなる。
那岐はもう片方の腕で顔を庇いながら叫び、今度は私に叫ぶように話しかける。
「翼!どうしたの?」
「……鈴の音…かな…?何か聞こえない?」
私は耳を澄ますようにして、左手でこの桜吹雪をどかすようにまわりをかく。
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