雨傘物語

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    差し出された手は濡れていた 今まで何度も繋いできたのにね サヨナラをするためのそれなんかいらないのに 「何で…」 「…なんでも」 泣きながら微笑むリーダー 目を見れない俺は涙も出なくて ねぇ 愛してるって伝えた時も ケンカして仲直りした日も 初めて身体を重ねたときも あんた泣きながら笑ったじゃん なのに 「…笑えねぇよ」 「…いいの」 「ワケわかんないって」 「もうきめたの」 「…勝手に決めんじゃねぇよ」 「だいすきだった」 もう過去なの? 俺はあんたの過去になるの? 思い出して、身勝手な奴だったって そうやって違う奴の温もりに埋まって 「そんなの…」 前にある手を取って抱き締めた 「嫌だ、許さない」 「やすっ」 「他の人が出来たの?」 「…ちがっ」 離れようとした体を目一杯抑えて 目に入った自分の手が震えていることに気付いた 俺はこんなにも弱くて あんたがいないとダメなのに 「一人にしないで…空…」 震える声で名前を呼んだ 離れてかないでって願っていたら 雨音に負けそうな小さな泣き声がして 体を離したら、また泣き笑いのリーダーが俺の手を取った 「ばいばい…ミヤ」 遠ざかって行く小さな背中は 雨で良く見えなかった 俺と同じ震えた声 昔の呼び名で呼ばれた 恋人じゃなかったあの頃にさえ もう戻れないのに .
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