序章

3/7
前へ
/455ページ
次へ
「これ。起きなさい!ロビン。」  腰まで伸びた白髪と、胸まで伸びる白い髭を揺らして、居眠りをする少年の肩を叩いたのは、この村の長老【アタナシウス=キルハ】。  村人たちからは『キルハ様』と呼ばれ、敬われている。  一方、居眠りを見つけられてしまった少年の名は【ロビン】。  まだやんちゃ盛りの14才だ。  ここは【ハインベル】という小さな村。  霊峰リンカの南の麓に位置し、大森林に囲まれた静かな場所だ。  村人はおよそ800人。  外部からの来訪者もほとんどないこの村は、村独自の風習を守りながら、ひっそりと平和な日々を送ってきた。  村は『大講堂』を中心に民家が集まり、生活圏を形成している。 上空から見れば、大森林の中にぽっかり開いた、小さな穴のように見えるだろう。  『大講堂』とは村唯一の公共施設である。  しかし、名前とは裏腹に、実はそれほど大きな建物ではない。  現に村人全員が一斉に集まったところで、収容できる広さは備えていないのだ。  だが、村で一番大きな建物なのは確かである。  その屋根の上には、一際目につく高い鐘楼がある。  そこに登れば、村のほとんどを見渡すことができた。  大講堂は主に集会場として用いられているが、それとは別に、週に二度、午前中を利用してキルハの講義が行われている。  対象者は15才までの子供たち。  学校がない村の子供たちに、キルハが基本的な生活知識、基礎的な学問、村の風習などを教える。  ロビンが居眠りをしていたのは、まさにその講義の真っ最中だった。  キルハに肩を叩かれ、寝ぼけ顔で周囲を見渡すロビンに、キルハが厳しい口調で言った。 「話は聞いていたのか?」 「・・・聞いてました。」  眠そうに目を擦りながら、平然とこう言ってのけたロビンを、他の子供たちが声を押し殺して笑う。 「では、質問する。魂がこの世に生まれる場所は?」 「産婆さんのとこ!」 「では、魂がこの世を離れる場所は?」 「んー・・お墓?」 「ばかもの!!」  ロビンの頭にげんこつが落ちる。 「それは人の生死の話であろう!」 「いってー・・」  ロビンは痛みに声をあげ、頭を抱えた。
/455ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加