Prologue 1 縁側の暇人

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空が青い。 この感想を抱くのは、本日何度目だろうか。 雲一つとして無い空を、家の縁側に寝そべりながら、青年は思う。 暇だ。 とてつもなく暇だ。 この心の内での呟きも何度目だろうか。 彼は簡単に、単純に、ストレートに、とりあえず至極暇であった。 端から見れば、仕事もせず、家でダラダラしている堕落者に見えるだろう。 しかし、彼は仕事には就いていて、更に仕事は既に終えてしまっている。 彼の仕事とは外国人作家作品の翻訳である。主に英語圏のモノを担当としており、彼の翻訳は業界では有名である。中には『天才。いや、奇才』などと託けて媚びを売るような文句を聞くが、彼はそれをとてつもなく嫌がる。「奇才なんて簡単に使うモンじゃないよ。奇才って最上級だろ?確か?あれ?違った?まぁ良いけどさ。とにかく俺に奇才とか天才とか異才とか、そんなモン付けないでくれ。気持ち悪い、落ち着かない。本当に止めて下さいお願いします」と、彼は自分を『奇才』だと褒めたたえた人々に言っていた。 仕事を終えた彼は、抜け殻の様に縁側に横たわり、眠る。日課みたいなモノであった。彼にとって、この日課は至福の一時でもあり、大袈裟に言えば、この時の為に徹夜してまで仕事を一気に終わらせていると言っても過言ではない。
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