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オレは風呂場に入ると体を洗い、湯舟につかった。
「お先してま~す、若」
隣で声がした。荒瀬組組員で一応幹部の一人、月見里燕龍いた。こいつは朝風呂が好きでよく入ってる。
「修行お疲れ様です」と燕龍。
オレは片手をあげて答える。すると燕龍はオレのちょっとふて腐れてる雰囲気を感じとったのか、軽く微笑んだ。
「あの修行、なんのためのものかわからないでしょ?」
「ああ」オレは素直に答える。すると燕龍が、「あの修行を続けると霊力が強くなって異能が強まるんですよ」
「そんなこと言ったってオレは異能使えないんだよ?」そう、オレは異能者の団体の若頭でありながら異能をまったく使えない。じいちゃん曰く、霊力がないわけではないらしいけど…。
「どうせオレは総大将になるつもりはないし」
オレがそういうと燕龍は困った顔をしたが、咎めることはなかった。オレはなんだかその場に居づらく感じ逃げるように湯舟から上がって脱衣場に向かった。オレはわかっていた。荒瀬組を継ぐなくてはならないことぐらいわかっていた。でもオレにはその資格はない。異能も使えないし、あの時オレは………。
乱丸が風呂場を出て行ったあと一人残された燕龍はひとつため息をついて後ろを振り返った。と、どからか黒い砂が舞ながら集まり、人の形、いや人そのものとなった。燕龍はそこに立っている黒いスーツを着ている男に言った。
「どうしたんです?」
「この頃、荒瀬組のシマを荒らしまくってる異能者の一団がいるのは知っているだろう」男が答える。「情報では若の命を狙っているらしい」
燕龍の顔が険しくなる。男はさらに続けた。
「おそらく荒瀬組に対する報復だろう。なかなかの使い手もいるらしく、傘下の異能者もだいぶやられてる。気をつけろよ。若をしっかり守れ」
「…了解しました」
乱丸はまだ何もわかっていなかった。
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