今回のアルバムはぼくの一介の優しさになりえていればいいと思う

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今回のアルバムはぼくの一介の優しさになりえていればいいと思う

佐野元春さんが“ザッツ・ザ・ミーニング・オブ・ライフ”って歌うでしょ。本当に生きている意味が知りたいんだという気持の表れだと思う。ぼくの場合はそのまま“生きている意味が知りたいんだ”って歌うけど ― ― それはただの表現の違いだと思うんだけど ―― その年代年代の感じたいもの、求めてるもの、求めなくてはいけないものとかが、きっと生きてる意味という言葉に集約されたんじゃないかと思う。「誕生」はぼくのなかでの充実度が高い。いいスタッフに恵まれて、自分の思い通りの音楽に近づいてきたなという実感のなかで作れた。 前に「街路樹」というアルバムで、混沌としすぎたものをまとめようとしてこぢんまりしてという要素がぼくのなかにあった。すごくナーバスな気持ちだった。それよりももっと生きる意味を知るということに近づいていった。自分が歌いたいことって言ったほうがいいのかな、自分自身のためにも、それからオリンピック・プールで約束した意味に対しても、近づくことができた。 混沌としているものが、作業していくなかでどんどん凝縮されて、余分なものが省かれて完成形に近いものになった。ミュージシャンはロスとニューヨークの人たちで、今までぼくが出会ったことがないようなすごく個性的な人たちだった。みんな人柄もよくて協力的で。なかには協力的でない人もいたけれど(笑)。何でもすべて順調に進んだわけではなくて、いったんはレコーディングをやめてしまおうかと思ったときもあったけど、本当にそれを乗り越えて作ったという充実感がある。ひとつの作品はいろいろな人に携わってもらってできているということをつくづく感じた仕事だった。これこそが新たなスタンスかなと思えるような感じがした。 十代の頃のぼくは、なにもかもが手探りだったでしょう。あの頃のぼくを非常によく支えてくれた須藤さんという人が今回はディレクターで、ぼくがプロデュースをした。「すべてを決めるのは君だよ」と、すごく愛情のある突き離し方をしてくれた。人間をまとめていくことを含めてね。だから、仕事とかそういった観念をより深くぼくに理解させるに至った気がする。ひとつの作品を作るにはこれだけたくさんの人たちの気持ちが揺れ動いてできるものなんだなという。揺れ動きながら、それがひとつの作品になって、でもなおかつ揺れ動いていなければいけない。
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