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カランコロン
ドアにつけたベルが小気味よく鳴る。
私は肘をついた姿勢を、慌てて直して、笑顔をつくる。
「あ、いらっしゃいませ、宇佐美さん」
ハタチを少し過ぎたくらいの、凄く美人な常連さん。名前は確か、カナさん。
「あら、志乃ちゃん今日もお店番?偉いわね」
いつも私を労ってくれる。
私は「ありがとうございます」と笑って肩をすくめる。
いつもの光景。
ここは、町で一軒のお菓子屋さん。パパとママが作った素敵なお菓子を売っている。私は、学校から戻るとすぐにお菓子をつくるパパとママの代わりに店先に座る。
いつも、色んなお客様が来るから、実は楽しい。
しかも、広い窓からは、お菓子のショーケース越しに青い海が見渡せるのだ。
カランコロン
ありがとね、といって宇佐美さんが帰って行く。買っていったのはできたての小さなケーキ2つ。
彼氏さんの誕生日らしい。彼氏さんは、甘いものは苦手だけどうちのケーキなら少し食べれる、と言っていたのを思い出す。
宇佐美さんが見えなくなったのを見て、私はまた頬杖をついた。
…私には、決めたことがある。
こんな風に毎日、海を見ながら考えていたこと。
週に一度必ず、何も言わずにケーキを3つ買っていく、私と同い年くらいの男の子。
彼に声をかけるって。
名前も、住んでる場所も知らないけど、でも、私は彼に恋をしている。…多分。
どんな人何だろう。
考えると、ドキドキするから。
名前、聞くんだ。
…私の名前も聞いてくれるかな。
彼が来るのは土曜日。今日は金曜日だから、明日、来る。
今夜はきっと眠れないんだろうな。
窓の向こうでは、夕焼けに染まった海がキラキラ、キラキラ輝いている。
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