東方亡者行

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東方亡者行

 彼女が迷うことなど、ある筈が無かった。  迷わずは彼女の存在意義であったから。  彼女は強かったから。 「判決を、下します」  そこに慈悲が介在する余地はない。  彼女の絶対の基準に従って、生前の行いに依って、彼らは裁かれる。     贖うべき罪があると判断されれば、死者は地獄へと落とされた。  淡々と、彼女は死者に決定だけを告げる。  己の独断によって他者を裁くという独善。  誰にも、そんな資格はある筈が無いのだ。  しかし彼女は、職種としてそれをこなす。  他者を裁き、運命を決定づける。  そんな高慢を世界は許しはしないし、彼女もそれが当然のように許されるとは思っていなかった。  自分の分を超えた過剰な権力の行使には、当然何らかの方法で帳尻を合わせねばならなかった。  人の罪を裁く為の資格は、己が地獄へと送った者達以上の苦痛を、自分自身が味わうこと。  痛みを知らない者が、人に痛みを強いることなど許されはしなかった。  だから彼女は、日に三度、煮えた鉄を飲み下す。  マトモな精神が、マトモな肉体が耐えられる所業ではなかった。  だが彼女は耐え続ける。  耐え続け、地獄へと死者を送り続ける。  そして地獄へと堕とされた亡者達は、果ての見えぬ地獄の辛苦の中で、彼女への怨嗟を吐き続ける。  延々と。  地獄の辛苦が終りを告げない限り、彼女を糾弾し、貶める声は止むことがない。  常人であれば、まともな妖怪であれば、飲み込まれてしまいそうな程の負の力場が渦を巻く。  目に見える程に禍々しい怨念を受け続けながらなお、日に三度、地獄を超える苦痛を味わいながらも、彼女は人を己の独善で裁き続けた。
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