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「ハチミツ、色……?」
「そっかー!……なんか、美味しそうだな」
「…………」
私は黙って踵を返した。
「わっごめん! 冗談だよ! っと」
慌てたように追ってきた彼に腕の中のものを取り上げられる。
「これ、捨てて来るな」
「うん」
この人は、何処まで分かっているのだろうか。
その優しげな声と瞳に、黙って頷くことしか出来なかった。
「先に外に出ててくれ。あ、これレシートな。何か言われたら見せれば良いから」
一つ頷いて、外へ向かう。
「お待たせ~」
外へ出てすぐ、彼も出て来た。
次は何処へ向かうのかと見詰める。
「ん? あぁ、次は靴でも買いに行くか。ずっと裸足じゃ痛いだろ?」
「へ?」
履いていたはず、と思って下を見ると、確かに履いていない。
気付かなかった。
おそらく、あの子の上で落としたのだろう。
「ほら」
俯いたままでいると、また彼が私の手を掴んだ。
「大丈夫。直ぐに着くから、少しだけ我慢してくれな」
無言で、付いていく。
靴屋は本当に直ぐだった。
ほんの10メートル程度。
「さて、これでどうだ!」
そして出されたのが、黒のヒールブーツ。
動きにくいのに。
「何故、ヒールなの」
「何故って……似合うから?」
何故か質問された。
私に分かる訳無いのに。
「………………」
「大丈夫だって!」
10歳頃の話だけれど、履いたことがある。
そういう立場だったから。
この人は、履いたことが無いから言えるんだわ。
「履いてると痛くなるし、バランスも取りにくいし、戦闘には不向き」
「平気だと思うぜ?」
「……は?」
説明したのにそう切り返されて、訳が分からなくなる。
「戦闘用って書いてあったから」
……戦闘用、ブーツ?
「そう、なんか、えーっと、軟らかいらしい」
彼はしどろもどろに説明する。
「んで、なんか、精霊の力で、バランス取りやすいように加工してあるらしい」
……取り敢えず、大丈夫なのだろう。
「な、履いてみろよ」
「……足」
汚れているから、無理。
「あー……そっか。取り敢えず買っても良いか?」
「貴方のお金だもの」
とやかく言うより諦めが勝り、告げる。
「……そうだな。んじゃ、買ってくる。外、行っててくれ」
無言で立ち上がり、外へ向かう。
そろそろ、宿へ向かうのだろうか。
足を綺麗にしなくてはならない。
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