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そしてとうとう扉が開いた。
彼の手には、針金一本。
「なっ……!? おま、何してんだ!」
なぜ、そんなに必死な顔をしているのだろう。
彼自信は痛くも痒くも無いだろうに。
彼が、下に落ちた肉片に目をやる。
「跡……か? っ馬鹿! 何でそんな無茶したんだ!」
彼は言いながら、苦虫を噛み潰したような顔をする。
どうして、そんな顔をするのか。
彼位の実力者なら、こんなものはいくらでも見慣れているだろうに。
「ほら、来いよ。手当てしないと。痛いだろ?」
「大丈夫。痛いのには慣れてる」
そう答えたが、良いから来い、と急かされる。
何がしたいと言うのか、この人は。
仕方ない、と足を踏み出すが、左足に力が入らずバランスを崩して倒れかけてしまった。
倒れかけたと言うのは、寸でのところで彼が支えてくれたからだ。
「悪ぃ、抱えるぞ?」
そういうと彼は、私が頷く間も無く横抱きに抱え上げた。
何だか抵抗するのも馬鹿らしく、大人しくする。
もっとも今の私ではまともに抵抗する事も出来ないのだが。
「ここで待ってろな」
部屋に据え付けてあるソファーの上に私を寝かせると荷物の方へ向かった。
勿論彼の荷物だ。
その中から何かを持ち出して来る。
「痛いかもしれねぇけど我慢しろよ。高いヤツだ」
その手にあったのはかなり高級な薬だった。
たしか……そう
「ラピス?」
「そうそう、良く知ってるな。んじゃ、塗るぞ」
優しげな声で言って塗り始めた。
がさつな彼とは思えない程に優しい手つき。
ラピス。
特殊な水晶の近くにしか生息しないという、美しい夜空色の薬草である。
一年に一度、それもたったの一分間しか咲かないと言うラピスの華。
その蜜は死にかけたものの命さえも救うと言われている。
葉も、そこらの薬草とは比べものにならないほど良く効く。
この傷も、ラピスを絶えず塗り続けさえすれば二、三日で塞がってしまうだろう。
跡は残るかもしれないが。
「よし、塗り終わった。良く我慢したぉわっ……!?」
薬を塗り終え、笑顔で顔を上げたと思ったら、急に顔を背けた。
「……痛くなかった」
「そ、そうか……」
取り敢えず答えてみる。
だが、顔は背けたまま。
一体どうしたのか。
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