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それっきり、静寂が場を包んだ。
彼の横顔を見る。
視線は思いっ切り逸らされている。
頬が赤い。
「何」
どうにもわからなくて口を開くと、彼の身体が跳ねた。
「えーっと、あの……服」
身体を見下ろす。
あぁ、着てないな。
脱衣所に置きっぱなしなのを思い出し立ち上がろうとすると、手で遮られた。
「あ、おい立つなって! 何処行くんだよ」
「何処って……服」
彼は暫く黙ってから立ち上がった。
無言で見守っていると、私の服を持って戻ってきた。
「………………」
無言で突き出されたのを無言で受け取る。
私に渡すと、彼はそそくさと離れていき背を向けて座った。
自分の手を見下ろすと、服と一緒に包帯も握っていた。
どうやら一緒に渡してくれたらしい。
ふと私が微笑みを浮かべていることに気付いた。
これは一体、何の微笑みなのだろうか。
「っは、早く着替えろよ!」
私が動かないことに気付いていたのだろう、彼が堪えあぐねたようにひっくり返った声で叫んだ。
仕方ない。
そのひっくり返り様に免じて速やかに着替えてあげよう。
包帯を手際よく巻き付けていく。
軽く圧迫感を加えて。
溢れ出していた血は、あの薬を塗った時点で止まっていた。
どうやら止血効果もあるらしい。
巻き終えた包帯は、自然と包帯同士で張り付いて留まっていた。
面白い。
こんな物もあるんだ。
下の下着と、ズボンをはいてしまう。
上は晒しを巻く。
包帯に慣れていたのはこのお陰。
その上から服を着て、終了。
「終わった」
声をかけてあげれば、そろそろと振り向いてきた。
私の姿を認め、深く溜め息を吐く。
片手で前髪を掴む様にして頭を抱え、肩の力を抜いた。
「焦った……」
そう、呟いた。
心底安心したかのような声で、思わず目を細める。
慌てて元に戻す。
笑い顔なんて見せて堪るものか。
「しかし、相変わらず無表情だったよな。俺だけ焦って馬鹿みてぇだ」
「そうかもね」
面白かったよ、とは言わないでおく。
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