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私がゆっくり食べていると、彼が不思議そうな顔で覗き込んできた。
「傷でも痛むのか? 元気なくねぇ?」
「……どうして」
私は、いたって普通のはず。
「否だって、折角の飯なのに随分ゆっくりじゃん? まさか、遠慮してる訳じゃねぇだろ?」
あぁ、そういうこと。
自分主体で物事を捉えないで欲しいわ。
私はこれが普通なんだから。
……ということはこの人、何時もこんな食べ方なのね。
一つ謎が解けたわ。
息を一つ吐いて、口を開く。
「あなたが特殊なの」
「あー、成る程なるほ……えぇ!?」
何だか大袈裟に驚きを表すと、ぶつぶつと言い始めた。
皆こんななんだが、だとか。
一体どんな知り合いなのか。
こんな人がごろごろいては堪らない。
まあ、類は友を呼ぶとも言うから、偶然そういう人種が集まったのだろう。
そうでないと困る。
私が。
「ま、いっか」
彼は持ち前の明るさであっさりと持ち直すと、またがつがつと食べはじめた。
……本当に私と一緒に食事をとろうという気はあるのだろうか。
一人でどんどん食べていくのだが。
言っていることとやっていることが矛盾している気がするのは私だけ?
まあ、良いのだけれど。
「食うの遅いな!」
あんたが早過ぎんのよ。
私は順調に食べているわ。
「そんなんで食い終わんのかぁ?」
大きなお世話。
ほっといて。
「ま、残ったら食ってやるから安心しろ……」
「五月蝿い」
いい加減、と思って言い放てば、終始笑顔だった彼が凍りついた。
「なっお、俺は、心配してだなぁ!」
「はいはい有難う。食べ終わるから安心して頂戴。楽しそうに食べるのは良いけれど、五月蝿くしないでくれる? 私の食べ方に口を出すことは無いでしょう。私には私のペースがあるのだから、邪魔をしないで」
「……すみません」
語調強く言えば、しゅんとして謝ってきた。
怒っている訳では無いけれど、放っておこう。
「だ、だってさ、久しぶりに誰かと食う飯だからさ、何かこう、楽しくてさ、」
何やら言い訳をしている様だけれど、まあ、良いでしょう。
無視で。
さあ、早く食べてしまおう。
傷で体力を消費しているのか知らないけれど、妙に眠いから。
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