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そうこうして食事を終える。
そこで、やっと彼を見る。
「さっきから何? ずっと見てる」
「え? あ、いや、美味いのかな、と思って」
それは、食事のことを言っているのだろうか。
「あなたも食べたでしょう?」
「ほら、感じ方は人それぞれだし、それに、なんか表情、変わらないから」
他人の表情を気にして食事をとるの?
「……変な人」
呟くと、彼は大袈裟に全身を揺らして硬直した。
そのまま黙ってこちらを伺い見てくるが、面倒だから何も突っ込まないことにする。
「眠りたい。疲れているのかしら、何だか凄く眠いの」
「それって怪我の……止めとく。分かったよ。運べば良いな? んじゃ」
彼は立ち上がると傍まで来て、両腕をこちらに向かって広げてきた。
そのまま、止まる。
私にも腕を広げろというのか。
子供のように抱かれろということか。
批難の意を込めて見つめていると、彼は諦めたように溜息を吐き無理矢理抱こうとしてきた。
「ちょっと……」
「こっちの方が早いんだ。頼む。良いだろ?」
「……。分かった」
文句を言いたいのは山々だったが、こちらは運んでもらう立場だ。
言葉を飲み込み、承諾した。
そっと抱き上げられる。
耳元で、ごめんな、と囁く声が聞こえた。
謝るくらいならやらなければ良いのに。
そもそも、恩を売っても良いところなのに下手に出るのか。
ああもう、このまま寝てやろうか。
別に良い、という思いを込めて彼の首に回した腕に少しだけ力を込め、彼の肩に頬を預ける。
彼は一瞬肩を揺らしたが、そのまま歩を進めた。
ああもう、眠ってやる。
目を閉じる。
が、時既に遅し。
まあ、扉一枚で遮ってすぐなのだから当たり前だが、もうベッドルームに着いてしまった。
彼は私をベッドの端に座らせる。
「それじゃ、ゆっくり休めよ。おやすみ」
だが私は、彼を呼び止める。
「待って。あなたはどこで寝るつもりなの」
「え? 俺は、そっちのソファででも寝るから大丈夫だ」
何が大丈夫だと言うのか。
「こっちで寝れば良いじゃないの。全く」
息と一緒に吐き出した言葉に、彼は意外な程の驚きを見せた。
瞳が見開かれる。
「い、良いのか?」
許可の変わりに一つ、溜息を吐いてみせると、彼は顔を輝かせた。
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