信頼

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「おいで」 小さく呟くとともに、じゃらりと音を立てて腕をあげる。 ハルベルトは甘えたように鳴きながら掌に顔をこすりつけて来た。 可愛い。 人間なんかよりずっと良い。 しばらく撫でていると、ピクリとハルベルトが反応する。 私も何となく感覚を広げてみる。 何か騒ぎが起こっているようだ。 聞こえて来たのは、侵入者を罵倒するような声。 さっきの女のものだ。 何……? 様子を伺っていると、刃物がぶつかり合うような音が聞こえてきた。 それと同時に、複数人のこちらへ向かう足音。 「ハルベルト」 囁くように名を呼び、鎖を噛み切らせる。 自由になった腕でハルベルトに縋り付き、震える脚をごまかし、立つ。 ハルベルトは大型で、立っている状態で私の腰あたりまである。 さて、誰が来たのだろうか。 「なっ……テメェ! どうやって鎖を外した!」 女が現れた第一声がこれだ。 よく見ろ、愚か者。 「外してないわ。ハルベルトが噛み砕いたのよ。あなたたちも噛み砕いてもらえば?」 「んだと!?」 挑発。 ハルベルトには、向こうがかかって来たら食い殺せと命じてある。 ……だが。 来た人が何をしたいのか、誰なのか知りたい。 ハルベルトへの命令を、私が合図したら、に切り替える。 「何で……クソッ。どっちにしろその脚じゃまともに動けねぇんだろ。強がりやがって。抵抗すんなよ!」 女は私の後ろに周り、首筋にナイフを押し付けて来た。 首に腕を回され、そこで無理矢理体を固定される。 脚に力が入らず下へ落ちようとする私の体のせいで、女の腕が首に締まってくる。 死にそうな程のものではないが、苦しい。 ハルベルトが唸った。 それをそっと悟られぬ様手で制す。 女と共に戻ってきた男共は、私の前に集い、武器を構える。 侵入者の影が現れた。 見覚えが、ある。 あれは、彼……。 だけど、売った張本人が乗り込んで来るものなの? そんなわけはない。 どうやら、様子を見る必要がありそうだ。 「そ、それ以上来るんじゃないよ! 可愛い嬢ちゃんに死んで欲しくは無いだろ!?」 その声と共に、ナイフが強く押し当てられる。 女の全身が震えている。 そのせいで、私の首が少し切れた。 痛みがピリと走る。 暖かいものが少し流れた。 痛い。 嗚呼、まだ痛みには慣れていなかったのだと、場違いな事を考える。
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