信頼

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「おいお前……それ以上やったら殺す」 聞いたことの無いほど低い声。 けれど、聞き覚えのある声。 その声に女がびくりと反応する。 これではっきりした。 彼、だ。 その人が、月明かりの下へ出てくる。 「よ、ライナ。無事で何よりだ」 彼はにっこり笑って言った。 目は果しなく冷たいけれど。 私は無言で彼を見詰める。 何故ここにいる。 彼が私の事を話したので無ければ、一体誰が。 浮かぶ疑問は尽きることを知らない。 「ハハ、酷いな。初めて見せてくれたまともな表情がそれかよ。俺のこと信用してくれて無かったのか?」 彼が苦笑した。 どうやら私は今相当驚いた顔をしているらしい。 しかし、それも仕方ないことの筈。 何故なら、あっという間に前にいた男共が倒れたから。 彼は、ここまで強かったのか……。 急に、支えが消えた。 後ろの女ががくりと力を失った。 「ぁっ……」 私は膝から崩れ落ちる。 「っと……大丈夫か?」 彼はいくら近くまで来ていたとは言え、崩れ落ちる前に私を支えた。 それに更に驚きつつも女の方を振り返ると、首筋がが噛み切られ、かぱりと開いていた。 吹き出した血が後ろの壁に付着している。女の死体を見つめていると、右から少しごわごわした物が私に触れた。 見なくてもわかる。 ハルベルトだ。 どうやら、彼に気を取られたせいで私の支配は完全に消えてしまっていたらしい。 だから命令していないのに女を殺したのだろう。 「……さ、帰ろうか」 彼の優しげな声に、私は黙って頷いた。 そして彼は私を横抱きに抱え上げ、歩きだす。 しかし、何かに気づいたようにすぐ止まった。 不思議に思って彼の顔を見上げると、困ったような顔で私の顔の上を見ている。 首を反らして見上げると、ハルベルトがついて来ようとしていた。 「あー、どうするんだ? コイツ」 「……ここは街中?」 私に確認しようとする彼だが、何と答えるにも状況を確認せねば、と思って問い掛ける。 「否、外れの方で、森がすぐ近くだ」 ならば、目立たぬ様森へ連れていってそこで話しをした方が安全だ。 「一緒に……森へ」 「りょーかい」 彼は小さく答え歩きだす。
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