信頼

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彼に運ばれながら思う。 状況を見るかぎり、彼は私を売った犯人ではない。 何より、犯人達は彼と面識がなさそうだった。 ならば何故私のことが知られたのか。 彼は私のいた場所をどうやって知ったというのか。 ……今は彼の事は置いておこう。 どうせこの後で聞くつもりなのだから。 謎は彼にだけあるのではない。 ハルベルトにもある。 ハルベルトは、何故私の支配が消えても私を守ろうとしたのか。 餌を守ろうとしたのは違う。 今大人しくついて来ているから。 私を子だと思ったのも、そうだとしたら彼を私に触れさせていないだろう。 と、ここまで考えたところであの建物を抜けた。 「森の少し奥まで行くな」 彼の確認とも言える言葉に、私は只頷いた。 建物を出て、中を眺めてきて、死んでいる人間は殆どいなかった。 多くが気絶、動けないほどの怪我であった。 数名意識のある者もいたようだが、彼に怯えた様子で只動けない者達の傍にいた。 彼は何を考えていたのだろう。 殺してしまった方が早いのに。 ああいった奴らは、同じ過ちを何度も繰り返す。 関係ないと言ってしまえばそれまでだが、彼はそんなことは言わない気がする。 私なら、私に手を出した時点で殺しているのに。 ちらりと視線を上にあげる。 ハルベルトはまだ大人しくついて来ていた。 「よし、この辺で良いか」 どうやらこの辺りで話を始めるらしい。 彼は道は覚えているのだろうか。 私ならいくらでも方法があるが。 そんなに奥までは来ていない筈だが、道の無い部分を選んで来たのだろう、既に道も出口も見えない。 とん、と近くの木の根本に座らされた。 私から話し出す気はない。 ハルベルトが寄ってきて、鼻先をこすりつけて来る。 彼を無視してそっと撫でていると、彼が口を開く気配がした。 「酷いことは……されてないか?」 私は何も答えずじっと睨みあげる。 私は疑っている。 それを察せないわけでは無いだろうに、何だそれは。 「うっ……そんな目で見るなって。分かってるよ。俺を疑ってんだろ?」 「そう、その通り。それを分かっててそんなことを言うなんて、あなたは馬鹿なの?」 「いやぁ、だって何を説明すれば良いか……。なあ、何を知りたいんだ?」 そうか、彼はこういう人間だった。 諦めて私から口を開く。
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