逃亡

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「取り合えずは、港町シュリネーベへようこそ。援助できなくて悪いけど、これから頑張ってね」 「はい」 ここは、シュリネーベ、か……。 たしか、この大陸と、その他の大陸を繋ぐ唯一の街。 それは検問もあるわけね。 さあ、中に入ろう。 それにしても…… 「どうしよう」 本当に荷物がないんだ。 いくらあんなところにいたって、お金がなきゃ何も出来ないこと位は知ってる。 働くにしても、一体何処で……? 取り合えず、町を歩いてみよう。 そうすれば、何か発見があるかもしれない。 働けるところが、見つかるかも。 出来るならば、なるべく給料は高い方が良いけど……。 そう簡単に、行くだろうか。 先ずは何処かの店に入らなければ。 これだけの人がいるんだ、コインの一枚や二枚、落ちてるだろう。 下を見て、歩く。 「…………あった」 人の向こうに見付けた。 私がいるのは道の真ん中で、コインがあるのは道の端だ。 汚れているが……大丈夫だろう。 拾うために、人込みを掻き分ける。 ……痛い……ん、もう、すこし。 「ぁっ……」 目の前で、コインが、取り上げられた。 慌てて振り仰げば、 『あ!』 さっきの男だった。 「………… 」 「…………」 暫く、静寂が私たちの間を支配する。 先に静寂を破ったのは、彼だった。 「あー、え~っと……。お、お茶でも、どう?」 何とも言えない空気が流れた。 「……はぁ。いいわ」 私は、溜息と共に許可した。 すると彼はいきなり私の手首を掴み、引っ張っていく。 わたしは、されるがままに付いていく。 どう行ったかも分からないまま、一カ所のカフェに着いた。 店員に案内された席に付く。 「何がいい?」 「何でも」 「じゃあ、コーヒー二つ」 「かしこまりました」 そしてまた、この空間を無言が支配する。 今度その空気を壊したのは、店員だった。 「おまたせしましたー」 コーヒーが二つ、机に並ぶ。 「お、俺は……タクト。皆には、タク、って呼ばれてた。そう呼んでくれ。君は?」 「ライナ。ラナって呼ばれてたけど、呼ばないで」
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