逃亡

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「え、ぁ、はい……」 「それで? 何か用?」 彼は、少しの間俯いて、そして勢い良く顔をあげ、口を開いた。 「なあ、俺達さ、また会えたんだぜ? 運命だと思わない?」 ……馬鹿だ。 馬鹿がいる。 「あのあとハルベルト5匹に襲われてさ、それでも生きてて、しかもこんな人波の中で会えるなんて、奇跡だろ?」 「前半はあなたが強かっただけ。後半は偶然よ」 私は、眉をひそめて言った。 「そんなこと言わないで! 一緒に行こうよ!」 条件次第では考えないことも無いわね。 「私にメリットは?」 「俺と一緒にいられる」 「この話は無しで」 即答に即答で返した。 「ごめん! 嘘! えー、俺と一緒に来てくれれば、旅費は全部俺が負担する。荷物無いとこ見ると、金も無いんだろ?」 「……いいわ」 中々頭が良いらしい。 良く見ている。 移動は何かに運んでもらえば良いから、要らない。 それにお金も、何かに強奪してもらえば良い話だ。 けれど、悪い条件ではない。 なるべく目立ちたくはないのだし。 行く先々で何か事が起これば嫌でも目立つから。 「まじで!? やった! んじゃさ、これ飲み終わったら、早速買いに行こうな!」 「そうね」 大分はしゃいだ様子の彼は、一体何のつもりなのだろうか。 見ず知らずの人間に金銭の援助。 何がしたいのか。 利用されるだけされて殺される可能性には気付いているのだろうか。 「そうね。それじゃ、行きましょうか」 「えぇ!?」 それに、私は既に飲み終わっていると言う事にも。 驚き様から言って、こちらは気付いていなかった様だけど。 性格はともかく、ハルベルトの名を与えられた獣を5匹も同時に倒したのだ。 腕は信用に足るだろう。 私のボディーガードにはピッタリだ。 あれ? そういえば、 「ハルベルトは、あなた一人で、倒したのよね?」 「ん? 勿論だ! 大変だったぞー」 ……嘘ね。 一人で、と言うのは本当でしょうけど、大変というのは嘘。 大変だったのに、怪我もなく、何かを失った様子も何も無いというのは変。 第一、余裕で倒せなければ、あの時間にあそこにいられたはずが無いから。 これは案外、良い拾い物をしたかもしれない。
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