逃亡

8/10
前へ
/27ページ
次へ
「ん、く、ぅ、ぷはぁっ! ほら、飲み終わったぞ! 行くか!」 「ええ」 彼は慌てたように飲み干し、席を立った。 先に外に出て待っていると、支払いを済ませて出て来た。 「まず、何が欲しい?」 「……服」 考えて出た物は、服だった。 装備云々の話ではない。 今はとにかく、この忌まわしい奴隷装束をさっさと脱いでしまいたかった。 「りょーかい。じゃ、こっちね」 彼は自然に私の手を掴み歩きだした。 振り払うのは面倒だったので放置。 周りを見渡せば、色々な人がいる。 だが、私をじろじろと見てくる人が多い。 それも当然だろうか。 こんな大きな町に、小汚い娘がいるのだ。 さぞ異端な事だろう。 目を引いても、仕方ない。 だが、こんな状況で私を引っ張っていくこの人は一体……? 力がばれているとは、考えにくいのだけど。 「さ、着いたぜ」 彼の一声に、現実に戻る。 彼の手を振り払い、中に入る。 早く、早く、新しい服を。 「お……おい!」 声が聞こえたが、関係ない。 所詮は、ただの便利な人間なのだから。 「おいってば!」 うわぁ……。 たくさん、ある。 こんなに見るのは初めてだ。 私のいたところとは、規模からして違う。 私に、選びきれるだろうか。 「なあ、もしかして……迷ってる?」 「……ええ」 暫く無言でいると、声を掛けられた。 悔しいが、図星を刺されたので返事をしてやる。 「あはっ、やっぱり! んじゃさ、俺に見立てさせてよ!」 自分では決められない、それに、センスは悪くないと見える。 最終判断は自分ですれば良いのだし、まあ……良いか。 「いいわ。ただし、気に入らなければ認めないから」 「お、わーかってるって! 任せとけ!」 何をそんなに意気込んでいるのか知らないが、随分と楽しそうだ。 この分なら真剣に選んでくれるだろう。 今は、のんびり待っていることにする。 彼のセンスで、どんな物が出て来るのだろうか。 果たして、私に似合うものなのだろうか。 楽しみ、かも、しれない……。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加