逃亡

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「はい、んじゃ、これ。買ってきたから、試着室で着てきて」 「は?」 「はーやくっ」 10分も待たないうちに出て来たのは、薄緑と黒の布一枚ずつだった。 半ば無理やりに試着室に押し込まれる。 気に入らなければ認めないと言ったのに、既に買ったとはどういう了見なのか。 渡された以上は仕方なく着替えることにする。 広げてみると、薄緑の方は膝くらいの長さで、裾が破かれたかのようにダメージ状になっている。 首周りは、縦に結構大きく開いていてノースリーブ。 黒の方は、ズボン、だった。 取り敢えず着てみると、裾の正面中心部が下腹部当たりから割れていた。 少し斜めのラインを描いて広がり、足を動かす邪魔にならないようになっている。 後ろも、斜めに開いてはいないが切れ込みが入っていた。 ズボンは、裾の方が広くなっていてブーツカットの様相だ。 見た目はジーンズのようだが、素材はもっと軟らかく動きやすい。 どうやら彼は機能性もきちんと見たらしい。 合格、だ。 私は一つ頷き試着室を出る。 勿論、もと着ていた服も持って。 「おっ! 似合うじゃん!」 出た途端、彼が言った。 「やっぱ俺の見立てに間違いは無かったな!」 「そうね」 「あぁ……その瞳にピッタリだと思ったんだ」 「え? ……よく、見えたわね」 私の髪は、前髪も後ろ髪もたいして長さに違いは無く、膝上程まである。 前髪をあげているわけではなく、常に視界の邪魔をされている状態だ。 だから見えたとしても一瞬のはずで、だからこそオッドアイの私はここまで誰にも何も言われずに来れたのだけど。 「ん? あぁ、ちっとだったけどな。綺麗だと思って、頭から離れなくて」 「きれ……い?」 こんな禍々しい物を綺麗だなんて言う人、初めて見た。 あの村でも私が特別だったから許されていただけで、普通の子だったら殺されるか追い出されていただろう。 「なあ、それ、何色って言うんだ?」 「……左目がフェアリーグリーン、右目がマリンブルー」 「へへ、そっか」 色を見るのは好きだった。 そこで学んだ名前。 綺麗すぎて、皮肉かと思ったけれど。 教えると彼は、嬉しそうに笑った。 「髪の色は? 金……とはちょっと違うよな。金より全然薄い」 確かに、金ではない。 もっと薄く、どちらかと言えばクリーム色に近いような中間。 例えるなら、そう……
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