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翌日昼を少し過ぎた頃、家の電話が鳴った。 風呂掃除をしていた私は、濡れた手を急いで拭き電話に出た。 「香純さん?元気にしてるかしら?」 「お久しぶりです。お母様」 電話の相手は颯の母親だった。 お茶の先生をしている颯の母親は、いつも綺麗な着物を身にまとい、 放つオーラや雰囲気に私はたじたじしてしまう。 それは仕方のないことだ。 生まれ育った環境の違い。それは拭い去ることができない。 颯と私は正反対だ。 颯は裕福だった。 私は貧乏だった。 育ってきた環境は、今もこうして私を脅かし続ける。 「香純さんにピッタリのお着物を見つけたの。近いうちにぜひいらして」 「ありがとうございます。伺います」 それからお母様は、こう続けた。 「結婚して1年経ったことだし、孫の顔が早くみたいわね。颯は長男よ。いつか主人の会社を継いでもらうわけだから、その先のことも考えて男の子がいいわね」 「はい。そうですね」 急かされる。 私の気持ちの焦りに拍車がかかる。 「こんなこと言いたくないけど、香純さんどこか悪いんじゃないの?病院行ったらどうかしら?」 溜め息混じりにお母様が言う。 お母様の言うことに間違いはない。 私も検査をしてはっきりさせたほうが良いことに、気づいていた。 けれど、 検査で『私が原因』と結果が出ることが怖かった。 颯も颯の家族も、子供を望んでいる。 颯の父親の経営する会社で働く颯は、お母様の言うように直に社長になる。 私は、 跡取りを 生まなければいけない。 電話を切ったあと、重く重くのしかかった重圧に 私はしばらくその場を動くことができなかった。 .
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