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「食欲ないの?具合悪い?」 何も知らない颯が、心配そうに私の顔を覗きこむ。 「何でもないの」 私は首を横に振り慌ててご飯を口に運び、できるだけ明るく笑った。 颯に言い出すことができない。 焦りは大きな確信と不安に変わり、私を包み込む。 「子供のことは香純のせいじゃないからな。タイミングだよ。だから気にするなよ」 違うよ颯。 原因はあたしなんだ。 「そうだね。ありがとう」 口に入れたご飯が、喉を通らなかった。 誰に相談すれば良いのだろう。 律子? お母さん? 幸せな律子にこんな話をしたくない。 お母さんに心配をかけたくない。 『妊娠する可能性は0%ではありませんが、極めて0%に近い数値だと理解しておいてください』。 医者の言葉が耳の奥で何回も何回も繰り返される。 呪いの呪文のような恐ろしい真実。 女としての私を失ってしまったような気がしてならない。 愛する人との子供を望みたいという当たり前の感情を、 私はなくさなければいけないのだろうか。 ベッドに潜り込むと、じんわりと涙が浮かんだ。 背中合わせに伝わる颯の体温は、今も出会った頃と変わらず温かいのに、 私の心だけが、凍りついたように冷たかった。 .
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