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『理由を告げずに別れを切り出しなさい』。
これがお母様に言われた条件だった。
『十分なお金はあげるから』とも付け加えられたが、私はお金を受け取る気は一切ない。
欲しいものは、
全て失ってしまうのだから。
それなら何もいらない。
何も、必要ない。
律子にだけは本当のことを話そうと、私は律子の家を訪ねた。
「深刻な話?」
律子は奈々葉ちゃんを寝かしつけると、温かい紅茶を私の前に置いた。
「離婚しようと思うんだ」
「離婚!?」
今寝たばかりの奈々葉ちゃんが起きてしまうのではないかと思うくらい、律子は大きな声を上げた。
「どうして?浮気されたの?他に好きな人できたの?何があったの?」
早口でまくしたてる律子。
「私、子供ができないみたいなんだ」
「え?」
律子の表情が曇る。
「颯のお家はしっかりした格式の高い家だから、跡取り問題とか大変なの。私じゃダメなの。私じゃ……」
「そんな……」
おぎゃあおぎゃあと、奈々葉ちゃんの泣き声が響き渡る。
「泣いてるよ?」
私がそう言うと、律子はゆっくりと奈々葉ちゃんを抱いた。
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