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テーブルの上に離婚届けを広げ、私は颯の帰りを待つ。 1分がとても長く感じ、私の周りだけスローで時が流れているように感じた。 「ただいま」 いつもは玄関に迎えに行くところだが、今日は行くのをやめた。 「香純?」 リビングのドアを開くと「いないのかと思った」と、颯は安心したように優しく目を細めた。 「話があるんだ」 私の顔が真剣だとわかると、颯は強張った表情でテーブルに視線を落とした。 「離婚届け?」 眉間にしわが寄る。 「別れて欲しいの」 静まり返る室内。 自分が息をしているかさえわからなくなりそうだ。 ピンと張り詰めた糸は、緩まない。 「どういうことか説明して?どんな話でも聞くから」 颯の瞳は優しかった。 理由も告げずに別れを切り出した私に対し、怒ることなく向き合っている。 「私……」 本音が漏れそうになり、慌てて言葉を喉の奥に押し込んだ。 言ってはいけない。 「私、疲れたの」 とっさに出た言葉は、あまりにも陳腐な嘘だった。 もっと気の利いた嘘を述べることができたなら、 『颯のため』と自分を納得させてあげられたのかもしれない。 私はひどく自分勝手で、 最低な人間だ。 .
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